ウエダ トシミ   Toshimi UEDA
  上田 寿美
   所属   京都外国語大学  外国語学部 ブラジルポルトガル語学科
   職種   講師
言語種別 日本語
発行・発表の年月 2025/10
形態種別 論文
査読 査読あり
標題 アンゴラ帰還者のアイデンティティの所在
—ドゥルセ・マリア・カルドーゾの小説『帰還』をめぐって
執筆形態 単著
掲載誌名 ANAIS LI (2004)
掲載区分国内
出版社・発行元 日本ポルトガル・ブラジル学会
巻・号・頁 (51),17-31頁
総ページ数 133
著者・共著者 上田寿美
概要 本稿では、ドゥルセ・マリア・カルドーゾDulce Maria Cardosoの小説『帰還』(O Retorno, 2011)に描かれるアンゴラ帰還者のアイデンティティに焦点を当てた。本作は、1974年のカーネーション革命後、植民地アンゴラの独立に伴い、本国ポルトガルへの帰国を強いられた、アンゴラ生まれのポルトガル人の主人公ルイの視点を通して、突然の帰還とその混乱に翻弄される帰還者家族の苦難を描き出している。物語には、アフリカからの帰還者、本国のポルトガル人、アンゴラ現地の黒人という3つの社会集団をめぐり、それぞれの立場の違いが浮き彫りにされる。主人公である帰還者ルイは、植民地アンゴラでの白人ポルトガル人としての優位な立場から一転して、本国では帰還者として差別と偏見の対象となる。このような環境のなか、帰還者の中には、自らのアイデンティティを保持しようとするものもいれば、それを放棄し、本国社会への同化を志向するものもいた。こうしたアイデンティティの相違は、登場人物たちの言語選択、すなわちクリオール語、キンブンド語、あるいは本国ポルトガル語の使用を通じて巧みに表彰されている。
 本稿では、ポストコロニアルの視座に立ち、ポルトガルを「想像上の中心としての帝国」として捉えるRibeiro(2003)の概念を参照し、約五世紀にわたる植民地支配の歴史の中で構築された「英雄的言説」と「喪失の言説」という二つの言説の系譜を辿りながら、小説『帰還』(O Retorno)における白人帰還者のアイデンティの変容について考察した。