オノ タカヒロ   Takahiro ONO
  小野 隆啓
   所属   京都外国語大学  外国語学部 英米語学科
   職種   教授
発表年月日 2016/06/25
発表テーマ ラベル算出法と統御理論による副詞統語分布に関する認可過程
会議名 国際言語文化学会
主催者 京都外国語大学
学会区分 研究会・シンポジウム等
発表形式 口頭(一般)
単独共同区分 単独
開催地名 京都市右京区西院笠目町6
概要 数ある統語範疇の中でも、副詞はJackendoff (1972)が言うように、その意味的、統語的多様性のため、伝統的にa catch-all termと見なされる範疇であり、複数の下位範疇に属するものとの分析が成されてきている。この複数の下位範疇の中で、一般に文副詞(sentence- adverb)と動詞句副詞(VP-adverb)と呼ばれる語の統語分布には、文の時制要素と動詞句との間に形成される階層構造と、副詞そのものの意味的特徴から、明確な認可条件が存在する。副詞は語彙配列(lexical array)からの外併合(External Merge)により、一致(Agree)操作により認可(license)可能な最大投射と対併合(pair-merge)を通して統語構造内に接合される。文副詞と動詞句副詞は対併合可能な投射(projection)が明確に異なっており、時制要素と動詞句間の統語構造が、それらの分布に制約を課している。文副詞の中には、intentionallyのような副詞に代表される項構造を持つものと、completelyのような副詞に代表される一般的に様態副詞(manner adverb)と呼ばれるものがあり、互いに異なる統語分布を示す。文副詞も含め、これらの副詞の統語分布を制限している制約を明らかにするためには、時制要素と動詞句間の統語構造を明確にする必要がある。Chomsky (2015)などにより示された生成文法の極小主義アプローチ(Minimalist Approach)では、内心構造性(endocentricity)をも放棄したラベル算出法(Labeling Algorithm)を、根元素(root)と範疇決定機能主要部(category-defining functional heads)の結合により形成された統語要素(syntactic object)に適用することで、従来、句構造規則やX-bar理論により形成されてきた統語構造を作り上げることになっている。副詞の認可条件には、このラベル算出法により形成される統語階層のどの位置に副詞が外併合されるのかが大きくかかわっており、項構造を持つ副詞と動詞補部の位置に数量詞句を従えた動詞句を持つ文の作用域を考察することで、その統語分布の制約が明らかとなる。副詞内の項構造は一種のPROとして記述されると考え、統御理論(Control Theory)が、不定詞や動名詞の意味上の主語の決定だけでなく、この種の副詞の統語分布に制約を与えるものとすることができる。時制要素と動詞句間の階層構造には、法助動詞句と、完了相、進行相、受動相の三者を含む相句(Aspect Phrase)があり、The city will have been destroyed by the enemy.のような文中に、文副詞のprobably、項構造を持つ動詞句副詞のintentionally、そして様態の動詞句副詞であるcompletelyがいかなる位置に生起可能で、さらに項構造を持つ動詞句副詞の場合には、その項の先行詞決定がその副詞の併合位置によりどのような解釈が与えられるのかを考察する。これにより、時制要素と動詞句間の統語構造をより明確に記述することが可能となる。