オオコシ ツバサ
Tsubasa OKOSHI
大越 翼 所属 京都外国語大学 外国語学部 スペイン語学科 職種 教授 |
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発表年月日 | 2023/12/02 |
発表テーマ | 「異質な空間から慣れ親しんだ空間へ:植民地時代のユカタン・マヤ先住民社会における空間認識に 関する一考察」 |
会議名 | 第28回古代アメリカ学会研究大会 |
主催者 | 古代アメリカ学会 |
学会区分 | 全国学会 |
発表形式 | 口頭(一般) |
単独共同区分 | 単独 |
国名 | 日本 |
開催地名 | 京都 |
開催期間 | 2023/12/02~2023/12/03 |
発表者・共同発表者 | 大越 翼 |
概要 | 1552 年からユカタン総督府領内で開始された「集住政策(Política de congregación)」によ
り、先スペイン期の拡散型居住パターンを持っていた先住民社会は、広場(Plaza)を中心と した碁盤の目状の街路を持つ、幾何学的な外観を呈した村(pueblo)の集合体へと物理的変 容を遂げていった。人々は、それぞれのグリッド内にまとまって居住するようになり、これ により植民地当局は、先住民をより効率的に管轄し、収税のみならずキリスト教への改宗と その後の監督を容易にすることができたのであった。 これまで、植民地時代の先住民社会を論じる際に、この居住形態の変化は、それが物理的 に把握できるものであるが故に、征服後のマヤ社会の文化変容の代表的な例だと考えられ ることが多かった。しかし、ここ 10 年ほどの歴史学的研究は、先住民は、征服中そして征 服後もそれ以前と同じ論理を用いつつ新たな時代を柔軟に生き延びていったとする、「歴史 の連続性」に着目すべきであることを強調している。本発表は、この歴史学的研究の動向を 踏まえた上で、植民地時代のユカタン・マヤ社会がどのように「集住政策」によって創出さ れた居住形態に対応して来たのかを、史料分析と民族学的データをもとに考察するのを目 的としている。 具体的には、カンペチェ州ヌンキニ村における野外調査をもとに、「碁盤の目状の街区」 には当てはまらない、中央広場もしくは教会に向かう斜めの街路の存在、および各街角 (esquina)に付されている名前(通称、あだ名)に着目する。これらはスペインによって強 制された新大陸植民地における町や村の幾何学的街区の理念型、および設置規定にはなか ったものである。斜めの街路は、かつて村の中央にあった先スペイン期の建造物に到達する ためのもので、それを集住政策の中でもきちんと残し、今度はその建物を破壊して建立され た教会へ向かう道として利用され続けたことを示している。また、街角に名前が付されてい ることは、先住民が自らの先スペイン期に起源を持つ空間認識方法を新たに創設された空 間に応用した結果なのであり、押し付けられた異質な空間を、「名前」を付すことによって 自らのものにした事実を意味しているのである。 *本報告は、JSPS 科研費(基盤研究(B))「被征服者が生んだ現代メキシコとその軌跡:歴 史的資源の通時的研究による新たな歴史像」(JP22H03844、代表:大越翼)の研究成果の一 部である。 |